SaaSベンチャーで働くエンタープライズ部長のブログ

SaaSベンチャーでエンジニア→プロダクトマネージャー→エンタープライズ部長として働いています。

プロダクト戦略とGo To Market戦略の関係

SaaSPMFを繰り返していくことで成長すると過去書きました。

www.blockchainengineer.tokyo

スタートアップのSaaSはT2D3の成長が必要だと言われており、5年間で72倍の成長を求められます。そのために、レバレッジがかかるように戦略が重要とされます。

スタートアップの T2D3 (Triple, Triple, Double, Double, Double) | by Taka Umada | Medium

B2BSaaSの戦略として、プロダクト戦略、Go To Market戦略の2つがあります。今回、この2つについてどのような役割があり、どのように関連するのかを書いていきます。

プロダクト戦略とは

プロダクト戦略は簡単にいうと「誰に」、「何の価値を」提供するかを定めることです。「誰に」についてはマクロに捉えると「マーケット」となりますが、シンプルにプロダクトを求めている相手の像と考えるので良いのでは無いかと考えています。 例えば「営業を代替する」というプロダクトを売ることを考えます。ターゲットとして個人事業主のエンジニアが浮かび上がってきたらそれ即ちマーケットです。あくまで、「マーケット」というのは言葉でしかなく、その裏にはユーザーがいて、そのユーザーの何のペインを解決したいのかを考えることが本質なのだと考えています。

「何の価値を」については、教科書的な定義として、製品コンセプトやベネフィットなどの用語はありますが、僕はシンプルに「何のペインを解決するか」と捉えています。先程の例だと、営業を代替したい、という人は「営業自体が嫌い」なのか「自分で良い営業チャネルを持っていないから頼りたい」なのか、「価格交渉でいつも負けてしまうから代替して欲しい」のか、「あるいは同じような立場の人とのコミュニティが欲しいから、プロダクトを通して繋がりたい」なのかなど、ペインを発見することが第一歩でペインの解決が価値となります。

プロダクト戦略の作り方

「誰に何の価値を提供するか」を考えるとき、悶々と考えていても有力な仮説は出てきません。僕はN1分析をひたすら繰り返していく手法が早いと考えています。

対象とするユーザー群の仮説を持って、定性的なヒアリングを行なってペイン/ニーズを行っていく。ユーザーは少し幅広にヒアリングを行っていく。 ペインが想定と違ったら修正し、ユーザーによって少しずつペインは違うはずなので、ユーザー像もカテゴライズした上でそれぞれのニーズとペインを整理していきます。

これを繰り返すことによって、一定のクラスタで汎用的なニーズが見えてきて、クラスタの中で抽象化したユーザー像が徐々に把握できます。

N1分析を繰り返していくことでユーザー像やペインが明らかになり、理想のプロダクト像の解像度も上がっていきます。

プロダクトマネジメントをしていく上でヒアリングは宝の山だと感じます。論理的思考や発想力などは、個人差はある程度で収束することが多く、むしろ持っている情報の差がアウトプットの質に影響するのではと私は考えています。機械学習には「ガベージイン・ガベージアウト」という「無価値な情報からは無価値な学習モデルしか生まれない」という至言がありますが、結局ユーザーの言葉、ユーザーの日々の行動などが一番重要かと思います。

なお、これを少し幅広に行う手法をプロダクトマーケットマッピングとして、ユーザー群に対するペインを整理しています。

speakerdeck.com

Go To Market戦略とは

「誰に」、「どうやって」価値を届けるかがGo To Market戦略です。価格メニューの定義、流通チャネル、プロモーション手法など、「どうやって」の部分を詳細に定義していきます。ペインの解消に見合う価格なのか、導入方法はどうするのか、流通チャネルは自社なのか、他社でもつのか、それによるカスタマーサクセスへの影響はどの程度か。プロモーション手法はオンラインなのか、オフラインなのか、最適な経路は何なのか、どのようにファネルを組んでいくのか。変数が非常に多い作業です。

また、ビジネスとして成立するかの検証も作業として入ってきます。ユーザー像やマーケット、即ち「誰に」について考える点はプロダクト戦略と共通しています。プロダクト戦略ではペインやヒアリング内容を整理して、「ユーザー」や「求められる機能」を見つけていきます。 しかし、ビジネス上成り立つのか、あるいは自分たちの組織で実行できるキャパシティがあるのかについて検証は済んでいない状態です。Go To Market戦略ではビジネスとしての実行性を検証し、綻びがあればプロダクト戦略にフィードバックすることで、全体として整合性のある戦略を再検討、ブラッシュアップしていきます。

最後に

プロダクトを成長させるための戦略として、プロダクト戦略とGo To Market戦略について考えていることを書きました。チームが小さいうちは両方の責務をプロダクトマネージャーが持っていくのも良いですが、回らなくなってきたらプロダクト戦略はプロダクトマネージャー、Go To Market戦略はプロダクトマーケティングマネージャーと責務を分割していくと良いかと思います。

最後に身も蓋もないことを書いておきます。プロダクト戦略、Go To Market戦略を検討していくとどうしても集めた情報だけでは意思決定の不確実性を包含することがあります。そうなると最終的には「気合い」や「思い切り」が重要なのではと思います。N1分析でファクトをためて行って、ロジックとしては成り立つ物を作ったとして、結果が出るまでも1~2ヶ月ほどかかることもザラです。

「戦略」とは「今できていないことをできるようになるための手法」であるわけです。つまり、戦略とは今結果が出ていない事に対して施策を実行し、結果が出るまでやり切るという意思決定に他なりません。 その責務を背負って決定をしていくために最後に必要なのは「気合い」、「思い切り」ではあるはずで、それがないとダラダラと会議だけ続けて現状のPMFで満足してしまう、という罠に陥ってしまう感覚があります。

プロダクト戦略、Go To Market戦略、いずれも大事ですが、最終的に気合い、思い切りといったところでプロダクトチームが出す結果に差分が出てくるのではないかと最近思います。