プロダクト作りにおいて、開発したプロダクトがユーザーにとって価値提供が成り立つのかを検証する作業のことをプロダクトマーケットフィット(PMF)と呼びます。これもふわりふわりとした概念で、元々はBenchmark Capitalの創業者であるアンディー・ラフレフ氏が以下のように定義しました。 「PMFとは強力な価値仮説を見つけることである。価値仮説とは、なぜユーザーや顧客があなたのプロダクトを使うのかを説明しうる重要な仮説のことである」 プロダクトを作る新規事業において、まず目指すのはPMFになります。最小限のプロトタイプ(MVP)をユーザーのフィードバックを受けながら改良し、「使いたい」と思わせること、そしてそれが多くのユーザーに適用可能な「強力」であることになります。
過去を振り返り、B2BのPMFプロセスを考えてみる
僕のいくつかの経験を思い返してPMFまでの流れを言語化してみます。
- まず大まかな仮説を持つ。こうすればこういう業種のこういう業務は楽になるのではないか。あるいはそこまででなくても、こういう業務はテクノロジーで楽になるのではないか、でもよい
- 顧客の業務を観察する。ヒアリングに加えて、できれば現場での業務内容を観察できると良い
- 2での観察を踏まえたうえで、1で作った仮説をなるべく言語化し、仮説が当てはまるかを顧客にぶつけてみる。顧客から肯定的であれば見込みがあるが、この時点ではプロトタイプがなく顧客も解像度が高くないので否定的な回答を返す場合もある。
- プロトタイプを作る。実際にきちんと動かなくてよい。むしろソフトウェアは張りぼてでもよく、画像や動画でもよい。ソフトウェアでの体験が必要ならノーコードツールで張りぼてを作ることもよいかと思う。3日もかからず作れるととてもよい
- プロトタイプを顧客に見せる。ここで業務に活かしたいという反応であったり、イメージがつかないという反応が得られたりする。イメージがつかないなら、プロダクトが合っていないのか、そもそも聞く相手が間違っていないか(人事に聞くべきだが営業に聞いていたなど)、プロダクトの方向性はあっているが機能が足りていないのかなど、ヒアリングを通して修正する。肯定的な場合であっても、実は聞く相手が実業務に利用するユーザーでなければ意味がない。そのため、ヒアリング先は多ければ多いほど良い
- 仮説とプロトタイプを修正し、より解像度が上がった状態で再度顧客に見せて修正する。解像度を上げながら様々な見込み顧客に見せて、検討して「マーケットに合うか」を探るとよい
6を繰り返しているうちに、うまくいけばお金を払って使ってもよいというユーザーが現れます。ただし、これが当初の仮説通りのユーザーとは限りません。業種は同じでも、業界が違ったり、あるいはSMB向けのSaaSを目指していたが、Enterprise向けのハイタッチSaaS(コンサルサービス付き)だったり、経営企画向けのマーケティング分析サービスを考えていたが、内部統制向けのリスク分析サービスを求められたりといったこともあるかもしれません。
この時、生々しい話だと創業者がやりたい・やりたくないという話が出てきます。(企業の新規事業で考えるとき、上層部から「会社のブランドと合わない」とか「下手したらレピュテーションリスクが」とかの横槍が入るなど置き換えてください)
創業者はマーケティングで創業したかった、内部統制サービスはやりたくないといったことは起きえます。この時、
- PMFが見えているのだからそちらでやりきる
- 創業者がやりたくないことはやらない。あくまでやりたい方向性での仮説を最初から考え直す
の選択肢があります。どちらが正しいのか未だに分かりません。しかし、時間と資金だけは正確で、バーンアウト(キャッシュが減っていくこと)は刻一刻と進みます。いずれにしても資金がバーンしきるまでにPMFは完了させないといけません。
お金を払ってでも使いたい、というユーザーが出てくるころには「強力な価値仮説」を言語化できるかと思います。この時のロジックが、作業時間が減るだったり、新規価値の創出に繋がるだったり、あるいは簡単に規制に則すことができるだったり、お金を払って使う理由について、顧客の業務を理解したうえで言語化しておくと進むべき方向が分かりやすくなるはずです。
複数マーケットへの継続的なPMF
B2Bプロダクトにおいて、PMFは1回で終わりなのでしょうか。(2Cもだと思いますが)プロダクトが成長するにしたがって、徐々に対象とする業種や規模が増えていきます。当初は商社を対象にしていたが、小売、製造業、ECを対象とするといった成長の仕方もあり得るでしょう。規模だと、SMBを対象にしていたが、MMB、Enterpriseを対象にしていくということもあり得るでしょう。
実際にやってみると、プロダクトでは新しい業界・新しい規模へはそのまま適用できないことも多くあります。そのため、新たに機能を開発して合わせる必要があります。なお、どんどん機能を追加していくとビジーにはなるので既存機能との折り合いをつけながら開発する必要があります。即ち、新しい業界への適用、新しい規模への適用もPMFが必要になるように思います。これらを水平展開のPMF、垂直展開のPMFと呼んで図にすると以下のようになります。
世界トップレベルに売れているSaaSであるSalesforceはあらゆる業界に対応していますが、Salesforce自体をプラットフォーム化してあらゆるアプリを開発できるようにしています。基本機能に加えて、足りない機能はプラットフォーム上でアプリケーションを利用することや、Enterpriseの細かな仕様へ対応するためにスクラッチでアプリケーションを開発することもできます。国内で、あらゆるマーケットに対応してきたKintoneも、GUIでフォームの作成、データベース定義などを可能にしています。究極的に突き詰めると、拡張可能性を広く持たせるということが解になっていくのだと思います。 ※そして副次的にSalesforceエンジニア、Kintoneエンジニアという職業が生まれました。売り方として、カスタマイズにはハイタッチが必要となるためこういった職業が必要となったのでしょう。
まとめ
B2BプロダクトのPMFプロセスの言語化に加えて、マーケットの拡張への継続的なPMFがあるのではという持論を説きました。PMFプロセスは、過去の経験から記述しました。B2Bの、と絞っていますが私がB2Bプロダクト経験の方が多いので示しているだけで、B2Cでも当てはまる部分はあるかと思います。 最後に、最近読んでよかった「プロダクトマネジメントのすべて」を紹介しておきます。