SaaSベンチャーで働くエンタープライズ部長のブログ

SaaSベンチャーでエンジニア→プロダクトマネージャー→エンタープライズ部長として働いています。

カスタマーサクセスとは何か。エンジニアリングとの関係性

直近、ブロックチェーンに関係ないソフトウェア開発もしているということで、今月から少しブロックチェーン以外のことも書いていきます。

カスタマーサクセスについて学びました。プロダクト開発においてはユーザーのニーズを汲み取って機能に落とし込むことが何より重要ですし、B2Bであればそれを元にユーザーが業務に適用する事が重要です。

私はエンジニアですが、開発したものがユーザーにどう届くかを考えるため、またチーム開発を円滑にすすめるためにカスタマーサクセスを学んでおくと開発人生にとっても良いはずです。以下、B2Bのソフトウェアを念頭においた話です。

カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い

カスタマーサポートはユーザーからの問い合わせに基づいて迅速な対応を行い、プロダクト利用のサポートをする。行動起点がどちらかといえば受動的だが、カスタマーサクセスはあくまで能動的に動くものと言われる。そもそも、サービスでは問い合わせがない場合も多い。問い合わせがない場合、カスタマーサクセスは自ら連絡し、使いこなせるようにサポートする。

なぜカスタマーサクセスの概念が台頭してきたか

SaaSに代表されるように買い切り型のモデルからサブスクリプション(継続課金)型のモデルになってきたことが背景にある。

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全体で見て安いというより、コストの払う偏りが平準化されてきた、という変化だと思う。ソフトウェアの提供者からすると、初期導入後に業務で利用されなくとも、最初に売上は上がっているので直近で大きな影響はない。一方、サブスクリプション型であれば、導入後にすぐ解約されてしまうとすぐに売り上げに跳ねてくる。

これは、買い切り型ソフトウェアは売る時が最も売上で重要であるのに対し、サブスクリプションは継続型営業として、導入後も解約されないようにすることが重要である。

カスタマーサクセスの役割

カスタマーサクセスの役割として大きく言われるのは

  1. 解約(チャーン)の削減
  2. 追加受注(ネガティブチャーン)の増加

の2つだろう。1. チャーンの削減を第一義の目的とし、顧客と良好な関係を築き、アップセル(上位プランへの変更)やクロスセル(他の商品)、エクスパンション(従量課金で多くの量の利用など)があれば、勧めて2.ネガティブチャーンに繋げる。

また、その他にある役割としてプロダクトへのフィードバックループを築いて製品の改善に役立てることも重要である。導入済の顧客から要望を吸い上げて開発にフィードバックする。そうすると自ずとチャーンも削減され、新規受注のために役立つ機能ともなるだろう。

別の役割として導入に満足した顧客からの紹介案件に繋げることなどもある。

顧客ライフサイクル

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カスタマーサクセスの世界では顧客ライフサイクルも定義されている。有名なものでは、Gainsightの顧客ライフサイクル によると、プレセールス, オンボード(導入), アダプション(活用), グロウ(育成) の4ステップに分かれる。

オンボードが非常に重要であり、ここで業務に導入されることを目指す。特にオンボードの達成基準は何か、そしていつまでに達成するのか、どのようにすれば活用されるフェーズにするのかを定義することが重要である。

カスタマーヘルス

オンボードから、製品が良い形で利用されているかを把握する概念がある。カスタマーヘルスである。「健康」的に製品が利用されているかを把握するための概念であり、ヘルススコアと呼ばれる点数として把握・管理される。カスタマーヘルスがよければチャーンされる可能性は下がり、アップセルなどネガティブチャーンの可能性は上がる。

重要とされるカスタマーヘルスの例を以下にあげる

  • 製品定着率

    ユーザーが製品を使う頻度、利用者数、マネージャー層が利用しているか、意思決定場面で利用されているかなどから製品の定着を判定する

  • カスタマーサポート

健全なユーザーはある程度定期的に問い合わせを行ったりサポート体制を利用したりする

  • 調査結果

アンケート調査などによる結果を指標として用いる

メール配信などによる開封率、CTRなど

セグメンテーションとタッチ手法

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https://www.slideshare.net/GainsightHQ/how-to-account-for-customer-success より

カスタマーサクセスにおいてはハイタッチ・ミッドタッチ・テックタッチと呼ばれる手法が分かれる。

企業規模に置いて、同じやり方でカスタマーサクセスはできない。大きな成熟企業のような顧客では費用を多く支払っても良いので手厚いサポートを受けたいというニーズはある。顧客の個別の事情を理解した上で、個別のオンボーディングプロセスを用意すること、四半期ごとにマネージャーのビジネスレビューや、導入における特定の手続きに対する対応、ヒアリングによるヘルスチェック、導入部署へのトレーニングサポートなど様々である。

一方で、SMBにおいては問い合わせるまでもなくセルフサーブ型で対応することで安価に済むならそれで良いと考えているニーズはある。そのようなセグメントにおいてはテックタッチと呼ばれる手法がある。この場合、顧客への対応は自動化されたプロセス、すなわちテクノロジー主導で行われるということになる。タッチ手法の対応は多くは一対多となる。コミュニケーションチャネルとしては、メールの他に、

  • ウェビナー
  • ポッドキャスト
  • コミュニティ
  • ユーザーグループ
  • カスタマーサミット

などが存在する。既存の顧客に対してヘルススコアを把握しておき元に多くを把握し、個別対応はしないものの困っているニーズを吸い上げて、上記のような1対多のコミュニケーションを可能にするテクノロジー主導の対応を行う。テックタッチにおいては、一人が数百社を担当することも少なくないため、ヘルススコアの管理やニーズを知ることにおいてもテクノロジーによるレバレッジをかける必要がある。

ミッドタッチはハイタッチとテックタッチの中間手法である。ジャストインタイム(トヨタ生産方式)の概念が使われ、過剰ではないが顧客が必要な時だけサポートするという方針である。個別のオンボーディングプロセスまでは用意しないが、パッケージ化したオンボーディングプロセスや、自動化したヘルスチェックなどで対応する。個別にテックタッチの要素を補うところから始めるのが無理のない方法と呼ばれる。

最後に。プロダクト開発とカスタマーサクセス

プロダクト開発を行う中で「必要とされる機能を作る」という意味合いで、カスタマーサクセスは業務に利用されるためにどうするか、そして必要とされる機能やUIは何かとフィードバックする機能面を持っています。

サブスクリプション型モデルになって、必要とされないものは素早くチャーンされる方式になりました。これは、プロダクト提供者としてはフィードバックがすぐに反映されるという、より厳しい環境になっています。そのため、すぐにニーズやフィードバックを得て開発が必要という環境になってきており、素早いフィードバック、開発のサイクルが定常化することになります。

サブスクリプション型モデルでの開発で生き残れると、素早い改善サイクルができるチームが生まれることになり、その改善サイクルを回せるというチーム自体が非常に強い地力となるのではないかと考えます。また、カスタマーサクセス自体もカスタマーヘルスの把握、テックタッチなどテクノロジーを利用してレバレッジをかけるという手法が必要で、そこでエンジニアリングの力を発揮する余地は大きいのでしょう。そのため、プロダクトへのフィードバックループ、カスタマーサクセスへのレバレッジという意味合いで、エンジニアがカスタマーサクセスを理解しておくことは強いチーム作りに役立つと考えます。

最後にカスタマーサクセスについて基礎的なところを書きましたが参考にした書籍を紹介しておきます。