2023年に、エンタープライズ部の営業組織はインダストリーカットにしたという話を書きました。エンタープライズ営業の効率化を目指し、当初「インダストリーカット」という形態を導入しました。業界ごとに営業担当者を固定することで、特定業界に特化した知見を深め、顧客ニーズに的確に応えることを目指した取り組みです。
実は、この取り組みは随分前にやめています。結論として、インダストリーカットはやめてよかった意思決定の1つとなりました。当初は営業チームからも評価され、顧客に寄り添った提案が増えました。一方で、デメリットも見えてきたことも事実のため、その内容を記します。
このブログは「私のAI活用」「在籍エントリ」「全員営業・全員採用」の3つのテーマに沿ってブログやnoteをリレー形式で発信するLayerXでの企画【#日めくりLayerX】の一環で投稿しています。前日は、yanaさんのPdMからみたバクラクの特徴と「債権管理」をやる理由 #日めくりLayerX|数字に強くなるための勉強ノートでした。会計士・経理などを経て感じた生々しいペインを解決するという、熱い思いが詰まったnoteとなっています。
インダストリーカットで得られた成果と学び
インダストリーカットを採用することで、短期的にはインダストリー調査のナレッジを提案に活かしやすくなるという成果を得られました。
業界ごとに特化した営業活動により、業界別の課題や顧客のニーズを深掘りする機会が増えました。この結果、蓄積されたナレッジが提案の質を向上させ、営業チーム全体の成果向上に寄与しました。
また、特定業界の知見を深めた担当者が、顧客の話や業界課題を把握できるようになったため顧客の話や業界全体の課題を捉えることで深いコミュニケーションができるようになりました。
加えて、営業担当を固定することで、業界特性が受注率に与える影響を明確化することができました。これにより、データに基づく営業戦略の立案が可能となり、業界ごとの収益性を定量的に評価する土台が整いました。
インダストリーカットのデメリット
一方で、インダストリーカットの運営中には課題も明らかになりました。
1つは受注率の格差です。これは一定覚悟していましたが、業界ごとの受注率に大きな差があり、営業の目標設定がかなり難しいものとなりました。
2つ目として、最も大きかったのは商談の偏り、調整の非効率性です。たとえば一時期なぜか特定の業界からの商談が集中する現象が発生しました。この現象には市場のトレンドや明確な背景が見当たらず、説明や予測が非常に困難でした。そうなると担当業界の営業リソースは逼迫され、別業界担当が時間を持て余すという課題が生まれました。そうなると当然、逼迫している営業の追客や提案リソースは減って悪影響が及ぼされます。それであれば、ラウンドロビンで割り振って稼働調整した方が営業の生産性が高まります。
このような不均衡が続くことで、リソースが特定業界に偏り、営業全体の効率が下がる結果となりました。
インダストリーカットの再考 - 成熟組織向けの施策か
もちろん良い面はたくさんありました。インダストリーカット導入直後は営業全員が「続けたい」と話していました。しかし、これらの課題を踏まえると、インダストリーカットは組織規模や成熟度が一定以上の段階で有効な施策だと言えます。インダストリー特化型の営業体制は、十分なリソースや人員を持つ大規模組織でこそ活きるものであり、成長期のような比較的小規模な組織には適していない可能性が高いと思われます。
小規模組織の時点ではインダストリー特有のナレッジを資料化し、各担当者が参照できるようにする程度で十分活用できます。これにより、営業担当者全員が業界知識を共有しつつも、柔軟なリソース配分を可能にする運営が実現できます。
マーケティング・IS戦略における有効性
一方でインダストリーカットで得られた業界別受注率のデータは、マーケティングやインサイドセールス(IS)の商談獲得戦略において非常に有用でした。 業界別に担当者が分かっているので、営業による力量の変数を一定固定した上で業界ごとの受注率を推測できるデータが手に入りました。
業界ごとの受注率を基に、優先業界の選定を行うことで、受注率が高い業界にリソースを集中し、より効率的な受注に紐づけるための商談創出を最大化できるようになりました。
商談規模による分割への挑戦
その後、現在では業界ごとの分割を廃止し、エリア制を試したりした後、商談規模による分割という新たな試みに取り組んでいます。
エンタープライズ営業といっても案件規模は様々です。一部署での利用などは小規模企業の商談と規模は変わりません。一方でSMB営業と異なるところは商談の規模感が様々になるところでしょう。
全社展開など大規模プロジェクトになる案件を深く対応する営業と、一部署や関連会社向け導入など小規模案件を効率よく対応する営業ではスキルや求められるものが異なってきます。1人の営業が大規模商談も小規模商談も持つと、どうしても小規模商談がおろそかになりがちです。それならば小規模商談を1人の営業が多く持った方が顧客体験が良く、リソースの最適化にもつながると考えました。
商談規模ごとの分割は、案件特性に応じたリソースの最適配分を可能にし、営業チーム全体の成果向上を期待しています。
得た学び
インダストリーカットは、最初期に営業の解像度を高め、業界ごとの課題理解やナレッジ活用を進めるうえで重要な成果をもたらしました。しかし小規模からグロースさせる際には、やや過剰な仕組みであり、適用には慎重さが求められることもわかりました。インダストリー特有のナレッジは資料化し、共有可能な形にしてはいます。組織全体の柔軟性を保ちつつ、ナレッジは参照できるようにしながら進めていくことで有効な活用ができると考えています。
総じて、挑戦してみてよかった取り組みではあります。
最後に、カジュアルな情報交換
組織作りの試行錯誤について、1年半ほどもろもろ試してきました。特にエンタープライズ向けに事業開発をしようとするスタートアップ企業も増えている昨今、成功・失敗などナレッジをシェアしあえればと思います。どのような所属の方でも結構ですのでお気軽に情報交換を申し込みください。