ブロックチェーンのユースケース、特に不特定多数が参加するパブリックチェーンでのユースケースとして、「通報」という切り口はあるのではないかと最近思ったのでまとめです。
ブロックチェーンというのは大雑把に言ってしまえば、皆でデータを共有する仕組です。 空に浮かんだスプレッドシートという表現が斉藤賢爾さんの著書で出てきますが、これが分かりやすい表現だと思います。
ビットコインでは誰から誰にお金が移動したかという事がブロックチェーンに刻まれて皆に共有されています。もっとも、送り元、宛先はアドレスと言われる文字列で匿名化されています。口座番号だけは見られるけど、どのような属性の人間かは分からない、というようなイメージです。
インセンティブをつけてデータが収集される仕組み
普段の私たちの取引情報についても、企業内システムにデータは記録されています。
例えば私がコンタクトレンズを買いに行って、Tカードを会計時に出してポイントを貯めたとします。これは裏側では、おそらくCCC社に20代男性がこの時間、このコンタクトレンズを買った、という情報が送られています。
その情報はCCC社とアライアンスをしている企業の中では共有されてマーケティングなどに使われます。ただアライアンス外の企業では使えませんし、ポイントもアライアンス外のシステムでは使えません。世の中には似たようなアライアンスがたくさんあって、XカードやYカードというものがあります。同じような仕組みをたくさん世の中に作るのは無駄だから、いっそ、全て公開情報にしてしまって、皆で使えるようにしてしまえば良いんじゃないかというのがブロックチェーンの応用発想として考えられます。
その時に必要になるのが現状もらえる「ポイント」の概念で、これを「暗号通貨」に置き換えるとします。たとえば、買い物をしたデータの共有者は暗号通貨がもらえて、そのデータの利用者はお金を支払う仕組をブロックチェーンで作るとします。
昨今の、自分の情報をネットで配信することに抵抗を感じない層を見ると、暗号通貨をもらえるなら、自身の買い物データをパブリックなブロックチェーンに書き込んでも良いという層もいるかもしれません。インセンティブをつけてデータ共有をする仕組みがデータベースとしてのブロックチェーンとしての見方もあるのではないか、と考えます。
通報という収集手段と使い道
一方で、インセンティブを与えてデータを収集・共有する仕組みといっても自身のデータを世界中に永続的に公開するということに抵抗を感じる人も当然いるでしょう。
このところ、自分のデータは明かさず、社会正義の元に他人のデータを公開する、「通報」というユースケースは相性が良いのではないかと感じています。
最近、Sentinel Protocolというプロジェクトの人と話す機会をいただきました。これは、犯罪に使われたビットコインのアドレスや、フィッシングに使われるURLを世界中から「通報」して収集する仕組みです。通報された内容は専門家が診断し、危険なアドレスやURLであれば暗号通貨で報酬が支払われます。
一企業が世界中から危険なアドレスやURLを収集するのは相当大変ですし、資本もかかります。そこで分散的に各個人を利用し、インセンティブを与えて通報させる仕組みとして利用する事で代替するというのが新しい利用方法だと思いました。特に暗号通貨であれば、国際送金などの手数料もかからないためインセンティブを与える手段としても適しているでしょう。
専門家が判断する、というのは完全な非中央集権ではないとも言えますが、スピード感なども考えると現実的な判断手法ではないかと考えます。嘘の通報がたくさんあった場合、完全な非中央集権の運営でどのように対応するかというのはなかなか難しい課題だと考えています。
世界中の個人をデータ収集のための作業をこなしてくれるアクターとみなし、全員で空に書かれたスプレッドシートを書いていく。
その一つの手段として「暗号通貨を報酬にした通報」は思想的な共感性、自身の匿名性が守られる点、報酬という観点などでマッチしやすいのではないか、と最近考えています。