ソフトウェア・サービス(SaaS)や企業間(B2B)営業は、直接消費者に営業する場合とは異なり、意思決定に関与する人が増え、取引の過程がより長く複雑になりがちです。しかし、B2BやSaaSの営業とB2Cの営業には共通点があります。それは、常に人とのつながりを大切にする必要があるという点です。つまり、営業プロセスにおいて重要なのは、製品そのものではなく、顧客の心に響くことです。
この記事では、B2BやSaaSの営業プロセスにおける共感の重要性について詳しく考察します。
営業アプローチにおける共感の役割
B2BやSaaSの営業における共感の重要性を掘り下げる前に、営業における共感の役割について詳しく見てみましょう。私自身、エンジニア、プロダクトマネージャーから入り、もともと営業を生業としてきませんでした。そのため自戒をこめてですがB2BおよびSaaSの営業場面においては、購入の決定権が人間にあることを忘れてしまい、個人よりも会社全体を説得することに焦点が置かれてしまうことが多々あります。即ち、ROI、課題とペインやソリューションの主張に重きを置きすぎてしまうことなどです。
B2BやSaaSにおける営業では、個々の意思決定者とのつながりに焦点を合わせることは重要です。特にエンタープライズ営業において、導入の推進者となっていただける方を見つけ、伴走いただけるようになることは重要です。
そのためには営業アプローチにおける共感が不可欠です。共感は、潜在顧客を実際の顧客に変えるため、推進者になっていただく真のつながりを促進します。共感を営業アプローチの最前線に置くことで、顧客のニーズに基づいたより情報豊かな意思決定が可能となります。
また、営業は断られることも多い仕事です。よく営業において4つの不、「不信」、「不要」、「不適」、「不急」などと言われますが、断る妥当な理由は多くあります。顧客の状況に「共感」することで、顧客がなぜ断ったかの理由をスムーズに理解し、購買の意思決定を妨げる要因を取り除きやすくなります。優れたセールスはソリューションの提案だけでなく、共感を含む感情的な知性を持ち合わせている、と感じることが多くあります。
B2BおよびSaaS営業での共感的アプローチ
B2BやSaaSの営業プロセスで共感力を向上させる方法を考えます。
会う前に顧客を徹底的に調査する
会う前に顧客の徹底的な調査は、共感を深めるための最初の重要なステップです。潜在顧客を十分に調査しなければ、そのニーズや背景を本当に理解することはできません。接触する前に、会社の歴史や目標、ありそうな課題、自社に期待しそうなことなど、詳細な情報を収集することが必要です。
さらに、ビジネスの背後にいる人々、特に意思決定者についても掘り下げます。SNSなどを活用して、意思決定者の個人的な興味や業務上の関心事に関する重要な情報を収集することもあります。某外資系ベンダーにいた営業の方と面接をすると、必ず自分のことを調べています。おそらく、商談前に相手の名前で検索することが癖になっているのだと思います。
データと共感を組み合わせる
B2BやSaaSの営業では、共感は強力な武器ですが、それにデータを組み合わせることで、競合他社との差別化も可能です。共感とデータを統合することで、顧客行動の全体像をより明確に把握できます。データを活用して、顧客が自社の営業活動にどのように反応するかを詳細にマッピングします。これにより、共感力を身につけながら、各タッチポイントで行動に影響を与える感情的・心理的要因をより深く理解できます。
反対意見に備えておく
共感力を身につける上での鍵は、人と自分の視点が常に異なることを理解することです。自社製品がB2BやSaaSの潜在顧客にとって有益であるかを理解していても、相手がすぐに納得してくれるとは限りません。潜在顧客が躊躇していることを非難するのではなく、反対意見に備えてください。まず、相手が話を進めたくない理由を考え、次に、顧客の反対に対してよく考えた返答を準備し、営業プロセスを継続するよう説得します。
営業手法ではオブジェクションハンドリングなどと言われますが、事前に顧客に共感をして、ありえそうな反対意見を想定して備えておくことで、克服しやすくなります。
誠実であること
共感には誠実さが不可欠です。潜在顧客が直面している問題を理解しているように振る舞っても、それだけでは潜在顧客の現状や将来の目標、そして自社製品がそれをどのように解決できるのかを本当に理解することはできません。押し付けがましくならず、売り込みに過度に焦点を当てないように心がけることも大事です。
B2BやSaaSの営業には時間がかかるプロセスが求められます。自社製品への投資が顧客のビジネスにとって最良であることを、納得してもらうには努力が必要です。誠実であること、忍耐強く潜在顧客に接することが重要です。
すべてのやり取りに共感を組み込む
共感力は、人によっては自然に身につくものですが、そうでない場合もあります。意図的に練習することで共感力を高めることができます。可能な限り共感を実践し、潜在顧客、同僚、上司、家族や友人、見知らぬ人など、日々交流するすべての人の立場に立つことを心がけることで共感を得やすくなります。 質問をして積極的に傾聴し、よく考えて回答し、自分との共通点を強調し、違いについても尊重します。さらに、関わるすべての人から学ぶ姿勢を持つことで、共感力を向上でき、営業アプローチにおいても自然な形で実践できるようになるはずです。
おわりに
B2BやSaaSの営業において、時として共感の視点は忘れられがちになるかもしれません。ただし、これまで述べてきた通り、営業プロセスの基礎として共感は重要な要素です。人間関係の構築や、提案ストーリー構築で論点を明らかにするためなど、提案のために共感という要素が必要になってきます。 最後に、共感を基盤に据えた営業は単なる取引を超えて、持続的な関係構築の礎となります。顧客との信頼関係を築き、彼らのニーズや課題を理解し、解決策を提供することで、長期的な成功につながります。ですので、常に顧客の立場に立ち、彼らの期待に応えることを心がけることで、顧客満足度の向上やリピートビジネスの獲得につながるはずです。