AIの発展によって多くの仕事が自動化されると言われています。実際、この数年でその流れはかなり現実のものになってきました。
SaaSによって定型業務はソフトウェアに置き換えられ、LLMの登場によって知識労働も自動化可能になりつつあります。さらに最近はAIエージェントという概念が広まり、人が操作するのではなく、AIが自律的にタスクを実行する方向に進んでいます。
この流れを見ると、最終的にはほとんどの仕事が自動化され、人がやることはほとんどなくなるのではないか、という見方も自然だと思います。
ただ一方で、現実のビジネスを見ていると少し違う動きもあります。AIが進化しているにもかかわらず、むしろ人が関わるサービスが伸びている領域があるように見えます。
この違和感について整理してみます。
Sequoiaの「The New Software」の整理
Sequoiaが公開していた「The New Software」という記事では、ソフトウェアとサービスの領域が分かりやすく整理されています。

内製とアウトソースの軸、知識と判断の軸で分けられており、注目すべきは上の
- Autopilot(自動操縦としてのAI)
- Copilot(副操縦士としてのAI)
という分類です。
Autopilotは、人が関与せずに処理が完了する形で、Copilotは、人が主体でAIやシステムが補助する形です。
例えばAutopilotになりやすい領域としては、
- 会計や監査
- 保険の計算
- 医療請求計算
- 税務アドバイザリー
などが挙げられています。
実際、LLMの登場によって、これまで人が行っていた知識労働の多くがかなりの精度で自動化できるようになってきました。AnthropicのClaude CodeやClaude CoWorkのように、AIが人の代わりに作業を進めていくプロダクトも出てきています。
この整理自体はかなり納得感があります。実際、多くのソフトウェアはAutopilot方向に進んでいますし、Copilot型の仕事も急速に増えています。
現実にCopilot型の仕事も伸びている
AIが進化して、知識部分は代替できるにもかかわらず、日本において人が関わるサービスで堅実に成長している領域があります。
例えば、
- 英語コーチングのプログリット
- パーソナルトレーニングのライザップ
などです。
プログリットは上場以降も成長を続けており、直近の決算では売上高は約57億円、前年比で約18%成長、営業利益も10億円を超えており、利益率も高い水準です。英語学習はAIでもできる時代ですが、伴走型のサービスはむしろ成立しています。
ライザップも一時期は経営が厳しい時期がありましたが、直近では営業利益が前年比で大きく伸び、 利益率も改善しています。トレーニング方法そのものはネットにもAIにもありますが、伴走型のサービスの需要自体はなくなっていません。
つまりはAIで代替されるよりむしろ、成長しています。これらに共通しているのは、知識を提供しているわけではないという点です。
英語の勉強方法も、トレーニング方法も、情報だけならいくらでも手に入ります。AIに聞けばかなり高精度な答えも返ってきます。
それでもサービスが成立しているのは、人による実行支援、人だからこそ人への行動変容の部分に価値があるからでしょう。
加えて、これらのサービスは生成AI以前からDXによる価値を提供してきたことが成長エンジンになっています。
CopilotはAIだけではない
Copilotというと、AIが人を補助するイメージを持つことが多いと思います。しかし実際には、Copilot的な構造はAIに限りません。
プログリットは、
- 人のコーチ
- 学習管理システム
- データによる進捗管理
の組み合わせで成立しています。学習管理システムやアプリを用いてユーザーの学習をサポートし、定期的な面談やメッセージによって人によるフォローアップと行動変容を促します。
ライザップも、
- トレーナー
- 食事管理アプリ
- データ管理
の組み合わせです。毎日の食事に対してアプリがカロリー計算、記録による体重や体脂肪率の変化を見てトレーナーが計画を立てて、食事管理や運動の管理、ジムトレーニングのサポートを行います。
これらは生成AI登場以前から「Copilot」型のサービスでした。
Copilotの概念を少し広げると、「人 + AI」の形もあれば、「人 + システム」、「人 + データ」の形もあります。共通しているのは、人の行動を支援する構造になっているという点です。この意味で、CopilotとはAIの機能ではなく、人の意思決定や行動を支える構造のことだと考えた方が自然だと思います。
おそらく、今後はプログリットやライザップのような伴走型サービスはAIを導入して、「人 + AI」型へのCopilot型へと進化していくのでしょう。
Autopilot領域は資本勝負だが、Copilotはより多様な方向へ
もう一つ感じるのは、Autopilot(完全自動化)の領域はかなり資本勝負になりやすいということです。
Autopilot型のサービスは、モデル性能、計算資源、データ量、また市場へのディストリビューションで差がつきやすい構造になっています。
実際、この領域で主導しているのはBigtechや大量に資金調達をしたOpenAIやAnthropicのような企業です。
最近では、AnthropicのClaude CodeやClaude CoWorkのように、AIが自律的に作業を進めるツールも出てきていますが、こうしたプロダクトを成立させるには、巨大なモデル開発コストや継続的な運用資金が必要になります。
つまりAutopilot領域は、資本競争に近い構造にもなりえます。それと比するとCopilot型サービスは多様な方向性に伸びる可能性を秘めているように見えます。人とAIという組み合わせのため、色々な可能性があるのでしょう。
なぜCopilot型が重要になるのか
そもそも人が求めるのは知識だけとは限りません。英語も筋トレも仕事も、やるべきこと自体は分かっていることが多いです。
むしろ多くの場合、続かない、判断できない、モチベーションが落ちるといった理由で止まります。
だから、方向を示したり、判断を自発的に補助したり、行動を促すといった支援が必要になります。
AIは答えを出すことはできますが、人の行動を変えるのはそれだけでは難しいところもあります。
結果として、人とAIが協力する形が必要になるという構造になるのではないかと思います。
AI時代に価値が残る仕事の特徴
この観点で見ると、Copilot型の、「主操縦者」としての仕事はこれからも価値が残りやすいでしょう。
人への働きかけ、意思決定の補助、関係性がある、といった仕事です。例えばコーチング、コンサルティング、メンタルケアのような領域は完全にAutopilotにはなりにくく、
むしろ「人 + AI」や「人 + システム」の形で進化していくように見えます。
AI時代は「人 vs AI」ではなく「人 + AI」
AIの話になると、人の仕事がなくなるか残るか、という議論になりがちです。
ただ実際には、
- Autopilotになる領域
- Copilotになる領域
に分かれていくように見えます。
そしてCopilot型の領域では、人だけでもない、AIだけでもない協働の形になります。
AIが進化するほど、自動化できる部分は増えるが、人の関わる部分の価値も上がるという構造になっている気がします。
そう考えると、「AI時代に価値が残るのは、人とAIが協力する仕事」なのではないかと思います。