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エージェント・シフト─OpenAI Assistantで“自律型ビジネス”が切り拓けるか

生成AIの第一幕は、「対話」を通じて業務を補助するチャットボットの普及で幕を開きました。そして、次にAIが求められているのは“受け答え”に続いて“行動”です。顧客は即時解決を期待し、従業員はより作業からの解放を望んでいます。

こうした圧力に応えるかたちで、LLMは会話モデルからエージェントへと変貌しつつあります。自然言語で受け取った意図を自ら分解し、ツールを呼び出し、成果物を届けるまで責任を負う。それが“自律型AIエージェント”としてよく話されている姿です。SaaS企業では各社エージェント、エージェントといいはじめました。

参考: note.com

OpenAI Assistants APIは前からありましたが、改めて触ってみて応用可能性がありそうだと感じているところです。本稿では、OpenAI Assistants APIがそのような一助になるのか、数字と物語の双方から描き出してみます。

OpenAI Assistantがもたらす“自律”の仕組み

Assistants API は「スレッド保持」「ツール統合」「Function Calling」という三つの柱で、チャットから柔軟に動けるエージェントらしさを形作っています。

  • スレッド保持によって過去の文脈は自動保存されます
  • ツール統合で検索・サンドボックスでのPythonコードを実行・ファイル参照をが可能になります。
  • Function Callingによる外部システムとの入出力を仲介

特に、Function Callingっが外部システムとの入出力を仲介することで、他ツールとの統合ができ自律型のワークフロー(Agentic Workflow)を実現できます。

重要なのは、「人の行なっていた作業を同等に行うこと」ができるか。そして、顧客満足の向上と内部コスト削減を同時に達成できる再現性です。 例えば、1つのケースをAIに想像させてみます。

AIが想像するケーススタディ

想像上のケース:サポート部門へのエージェント導入

国内企業A社では、月間約 3,000 件の問い合わせを 15 名体制で処理していました。Assistants API 導入後は、モデルが問い合わせを読み取りカテゴリと優先度を即時付与し、関連ドキュメントを検索し、一次回答を生成するフローへ移行しました。人間オペレータは「承認」ボタンを押すだけとなり、平均応答時間は 24 分から 4 分へ短縮、人員は 15 名から 4 名へ削減されました。APIと、エージェントが検索のために用意したベクトルDBのコストは月30万円程度に収まり、人件費削減効果の 5 分の 1 以下でした。導入30日で黒字化を達成したことで、経営会議では他部門への水平展開が即決されたのです。

Function Callingが生み出す「自走するサポートデスク」

A 社が鍵としたのは四つの関数(Function)でした。関数とは、Assistantが呼び出せる「手札」として考えてください。

エージェントの実装にあたり、A社は4つの関数を用意しました。

  • priority_ticket - 問い合わせの分類、優先度付け
  • search_docs -関連ドキュメントを3つ返す
  • draft_reply - 一次回答を生成して人間にレビュー申請する
  • aleart_human - 人間に緊急アラートを上げる

まず priority_ticket が問い合わせを瞬時にラベル付けし、search_docs がナレッジベースから最大 3 本の文書を抽出します。次に draft_reply が Markdown 形式の回答案を生成し、緊急性が高い問い合わせだけ alert_human が緊急通知を発します。モデルは「次に呼ぶべき関数(手札)」を推論、提案し、連携しているアプリケーションが実際に呼び出します。API キーや権限管理はエージェントに直接渡さずバックエンドシステムが担う設計にできるため安全性が高く、戻り値はJSONスキーマで検証されるので監査ログも整然と残ります。

ある現場での想像上のストーリー

ストーリーで追体験してみましょう。


月曜の朝、顧客の佐藤さんから「請求明細のPDFが文字化けしている」とチャットが入る。 エージェントは即座に「請求トラブル/高」を付与し、帳票生成モジュールのトラブルシューティング手順を含む 3 件のドキュメントを添付して回答ドラフトをつくる。ドラフトには「ご不便をおかけし申し訳ありません。下記手順で再発行できます」と丁寧な謝辞と手順が盛り込まれ、人間オペレータには “承認 / 編集 / 上長へアラート” の三つのボタンだけが提示される。もし 15 分以内にクリックがなければ、スマホにプッシュ通知が届き、人間が「承認」をタップした瞬間に顧客へ返信が飛ぶ。結果、平均応答時間は 28 分から 4 分へと短縮され、誤回答率も 3.9 % から 1.1 % へ低減した。経営者が見るダッシュボードには「一時対応を AI が完了」した件数と、アラートで起こされた“真夜中対応”の件数が並び、エージェントの投資対効果が一目でわかる仕組みになっているーーー


これはAIが想像したストーリーですが、実際にAssistantで関数を定義してシミュレーションしたものをスクリーンショットで置いておきます。問い合わせに対して、優先度付けして、アラート連携している様子が見えます。

エージェントベースのアプリの台頭予想──B2B・B2Cで起きる変化

B2B 領域では、CRMやITSMのAPIを関数として束ねる「部門横断エージェント」が台頭し、大きな市場規模へ成長する可能性があります。サポート・請求・予測分析をつなぐ自律フロー(Agentic Workflow)が一般化すれば、SaaS ベンダーは“機能”ではなく“完遂した業務”に対して課金するモデルへシフトする可能性もあります。

一方 B2C では、旅行予約や受診など意思決定が必要な行動をエージェントが肩代わりし、ユーザーは自然言語でエージェントと会話をしていく中で、「どんな旅行先がお好みですか?」「体調はいかがでしょうか?」と提案を受けてその会話の中で「お願い」を投げるだけで完了する体験に慣れていく、そんな可能性もあります。

こうしてエージェントはOSの一部となり、“自律型ビジネス”が切り開かれる、そんな可能性をOpenAI Assistantを触っていて感じました。

追記:個人的には「AIエージェント」という言葉より「AIアシスタント」という言葉の方が好きです。